vol.52『南総里見八犬伝』を読むで


タイトルが「読んで」じゃなく「読むで」になってることに気づいた貴方は、すごい。これは誤植ではなく「がんばって読むぞ〜」という現在進行形だから、あえてそうしてあるのである。だって、、長いんだもの。。


なので、ひとまず学研の子供向けマンガ版(全1巻)で、おおよそのストーリーだけ先に把握してみました。あっし気が短いんで。そしたら何かもう満足しちゃって、小説版の続きがじぇんじぇん捗らない今日この頃。まあ、そちらは風邪でもひいた時にじっくり読むこととして、とりあえず全体像を解説しときますね。(江戸ではそれを野暮な野郎って言う)


● あらすじ

安房国滝田の城主になった里見義実は、隣国の館山城主安西景連に城を攻められ、窮地に陥る。義実は、飼い犬の八房に「敵将の首を獲ったら、娘の伏姫を与える」と言う。すると、八房は本当に敵将の首を打ち取る。義実は、八房に伏姫を嫁がせるのは嫌だったが、伏姫の「君主が一度言ったことを違えてはいけない」という言葉により、八房と伏姫は富山の洞窟に籠もる。


伏姫の許婚である金碗大輔は、伏姫を取り戻すため八房を鉄砲で撃ち殺すが、伏姫にも傷を負わせてしまう。このとき伏姫は、八房の気を感じて懐妊していたが、身の潔白を証明するために伏姫は自害する。伏姫が亡くなった間際、護身の数珠から仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の8つの玉が飛び散り、霊玉を持つ八犬士が登場する。


出家し「ゝ大(ちゅだい)法師」となった金碗大輔は、飛び散った8つの玉の行方をもとめて旅に出る。ゝ大法師から事情を聞いた八犬士たちは、里見家の元に集結。里見家を救うため奮闘する。


● まるで少年漫画のようなストーリー

『南総里見八犬伝』には、冒険、友情、戦い、ファンタジーなど、少年漫画には欠かせない要素が満載。そのため、だれもが夢中になって読んでしまいます。また、この物語の主題が勧善懲悪、因果応報であることから、読み終わると爽快な気分になること請け合いです。


● ヒーロー「八犬士」のキャラクターが魅力的

『南総里見八犬伝』の魅力といえば、なんといっても作中に登場するキャラクターたちです。とくに八犬士は、持っている玉に刻み込まれた文字を見れば、それぞれの性格や能力がわかるようになっています。また、火とんの術や変装といった得意技や「宝刀村雨丸」や「十手」などのアイテムを使うなどの能力も特徴的です。


● 江戸時代にはすでにグッズ化も…エンタメ作品に大きな影響

『南総里見八犬伝』は、刊行当初は発行部数が少なく、価格も高かったのですが、貸本というスタイルによって多くの人に広まり、読まれました。当時の人気を伺い知れるのは、刊行中からすでに歌舞伎の演目になったことや、凧やすごろく、うちわの絵柄などにもなったそうです。今でいうグッズ化されていたのですね。現在でもこの作品の人気は続いており、映画、演劇、ドラマ、アニメ、小説、ゲームといったエンターテイメント作品に大きな影響を与えています。


ってことで、内容は「王道の冒険ファンタジー」だから、面白くない訳がない。されど、その王道を最初に創り上げたってトコが、馬琴先生の偉大さで。浮世絵でも繰り返し題材にされ、歌川国芳月岡芳年などの人気絵師も競って描いたのだとか。現代に至るまで数知れぬエンターテインメント作品に影響を及ぼしており、現在の戦隊モノの原点とも言える。


「俺が食い止めるから先に行け!」というような場面や、捕らわれた仲間を救う場面、戦ったライバルが仲間になる展開など、まさに現在の戦隊モノで描かれるパターンが随所に散りばめられており、また、8人のヒーローが揃うことにより、戦いの情勢を一挙に逆転するところなども同じで、非常に分かりやすい勧善懲悪ものとして大いに楽しめる(らしい)。あの『ドラゴンボール』も『鬼滅の刃』も、この路線と言えるし『七人の侍』や『指輪物語』だって、そう言える気がする。


< 登場する「八犬士」(←犬士が剣士とかかってるトコがにくい)>

● 犬塚信乃

孝の玉を持ちます。元服まで性別を入れ替えて育てると丈夫に育つという言い伝えから、女の子の姿で育てられました。読者の前に最初に姿を現す犬士です。


● 犬川荘助

荘介の表記もあります。儀の玉を持ちます。下男として酷使されたり、主人殺しの罪を着せられて処刑されかけたりと、八犬士随一の苦労人です。


● 犬山道節

忠の玉を持ちます。幼少時に父の妾に毒殺されましたが、墓の中で生き返りました。火遁の術を使う、いわば忍者ですが、ちょっと短気で短慮なところがあります。


● 犬飼現八

信の玉を持ちます。見八から現八に改名しました。因縁を知らずに信乃と戦います。次に紹介する犬田小文吾とは乳兄弟です。


● 犬田小文吾

悌の玉を持ちます。次に紹介する犬江親兵衛の伯父にあたる人物です。巨漢で、相撲を得意とし、暴れ牛を取り押さえる活躍もします。


● 犬江親兵衛

仁の玉を持ちます。最年少の犬士です。生まれつき左手が開きませんでしたが、実はここに玉を握っていました。初登場時は4歳。神隠しに遭い、伏姫神の庇護のもと富山で育てられます。後半の主人公です。母親のぬいは小文吾の妹です。


● 犬坂毛野

智の玉を持ちます。毛野も女装で育てられます。それに相応しい美貌の持ち主で、小文吾に結婚を申し込んだ際には、男性であると疑われることなく承諾されました。また、八犬士随一の知略の持ち主でもあります。


● 犬村大角

礼の玉を持ちます。父親に化けた化猫に虐待されたため、伯父・犬村儀清に引き取られ、犬村家の一人娘、雛衣と結婚。現八の助力と雛衣の犠牲により、化け猫を倒します。古今の書物に精通している人物です。



これだけ個性的なキャラクターがいて、それぞれに物語があって、そして全員集合するまでの経緯があって。。そりゃ長くなるわ。けども、ハマったら鬼ハマりするのも頷けますね。そんでもって、要所要所に「芳流閣の決闘」やら「対牛楼の仇討ち」やら「庚申山の妖猫退治」やら「関東大戦」だとかの名シーンが度々あるってんだから、絶対流行るに決まってるヤツですわ。


さてさて、物語の詳細はまだこれから味わいますゆえ、これくらいにしておき、ここから先は馬琴先生についてにフォーカスしてみますと。下積み時代は山東京伝の弟子であり、蔦重の書店でバイトしてたわけで。そこから化政文化の立役者に登り詰めると『椿説弓張月(ちんせつゆみはりづき)』という作品で、挿絵に葛飾北斎を起用。まさに化政文化の両雄が共演するという夢のコラボが実現する。


ところが、北斎が天邪鬼で「こう描いてくれ」という指示書に従わなかったり、勝手に狐とか描き加えたりするので、馬琴先生はご立腹だったらしい。なので、馬琴は作画を依頼するにあたり、人物を「左」に配置したい時は、あえて「右」と指示することで、目論見通り天邪鬼な北斎が「左」に描いてくれた、とコントロールしていたそうな。北斎あつかいづらっw


ちなみに ↓ 左が馬琴の描いた指示書で、右が北斎の描いた完成品。この頃、北斎は馬琴の家に居候しながら作画作業に専念していたらしい

ただ、北斎と馬琴の共同生活、必ずしも順風満帆だったという訳ではなく。馬琴は画工への注文が多く、いっぽうの北斎も、自分の絵に対する自信とこだわりが強くて、しょっちゅう衝突してたらしい。最後の大喧嘩は、登場人物の僧がぞうりを口でくわえる場面を馬琴が指示したところ「誰がそんな汚いものを口にくわえるもんか。そんなに言うなら、あんたがまずくわえてみろ!」と北斎が言い、それに馬琴が激怒したのだとか。


この喧嘩がもとで、翌年に刊行予定だった作品は頓挫し、コンビは解消。ただし、北斎の名声が上がり挿絵以外の仕事が忙しくなったとか、原稿料が上がってコストが増えたのを版元が敬遠したからという説も。どちらにせよ、夢のスター共演はこれ以降、果たされなかったのは事実である。


てな感じでこの時代は、蔦中から、歌麿やら、京伝に、馬琴も、北斎だって、おまけに写楽と、いろんなビッグネームが混じり合ってて、面白い、実に面白い(ガリレオの福山風)。なので、そのあたりを映像化してくれている『HOKUSAI』をアマプラで観ようと思う。そして観終わったら「葛飾北斎について」の記事を書くつもりだ。


『南総里見八犬伝』の読破は、、そのやうな機会がありますれば。。

一般社団法人 江戸町人文化芸術研究所

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