vol.3『江戸一新』を読んで


(ネタバレ注意)不思議な作品だった。

序盤、明暦の大火を巡る描写には、引き込まれた。まるで再現VTRを観ているような。こっちは大惨事になる結果知ってるけど、登場人物らはこの時まだそれを知らない感とか。勘の良い数人だけが、人より先に危機を察知してる感とか。切れ物の判断が、人々の生死を分けた感とか。誤った判断により、多くの人命が犠牲になってしまう感とか。

特に、あの有名な「小伝馬町の牢獄にいた罪人たちを解放してあげた話」のせいで、浅草橋の門が閉められ、2万人もの人が逃げ場を失くして圧死したエピソードは恐ろしかった。開けてやれよ。しかし、その判断ができない程の状況だったのも分かるし、事実はそこが怖い。自分のせいで2万人も死なせてしまった門番は、鎮火後どんな人生を送ったのだろうか。。

ただ、中盤は読むのがダルかった。松平信綱って主役に、そもそも認知が無い私が悪いんだが、それにしても史実なんだかフィクションなんだか分からない話がずーと続いてモヤモヤ。もう途中から斜め読みの飛ばし読みするも、長え長え。

そんなストレスに耐えつつ何とか終盤まで行くと、一気に山積した問題を解決する最終章が待っていて、急に面白くなって、何これ半沢直樹かよ?と。結果すごくスッキリで、中盤のダルダルが消し飛ぶ爽快さ。んで読破後に松平信綱をググって、史実に結構沿ってたんだまじか!と分かって、また上がるという。

そんな意味で、面白かったようなダルかったような不思議な作品だったけども、良い勉強になったことは多々あったので、今回学んだことを以下にまとめておく。


●まず明暦の大火が、ローマ大火、ロンドン大火に並ぶ世界三大大火に数えられてること。しかも被害者数は10万人超えで、明暦の大火がダントツらしい。てか10万人て。3.11の東日本大震災の津波でも2.5万人だ言うのに、ケタ外れすぎません?

●んで復興ついでに、それまでの江戸が抱える問題点を一気に全部片付けちゃったスーパー切れ物が、本作の主役である「知恵出づ」こと「松平伊豆守信綱」で。人形町で焼けちゃった吉原の遊廓移転をはじめ、武家屋敷から町人の土地まで、それまで江戸とされてきた地域の外に移すことで、色々な問題を解決する↓

●江戸人口増えすぎ建物密集しすぎ問題解消。(とりわけ御三家を移転させるのが至難の業だったが、火事対策の名目で見事ちゃっかり通す神業)

●火事対策で道を広く確保。あと、火除け地である広小路も確保。今も残る「上野広小路」もそれ

●「平和なせいで大名とか武家の力が弱まり武士が職にあぶれて食えなくなって牢人化しちゃってヤクザみたいになっとる問題」に対して「江戸を広げる街作りすっから職も生まれるし刀携帯してプラプラしてねーで働けや作戦」で解決。なにげにこの問題解消が一番の肝。

●あと他にも色々あって↓これが詳しい

てな感じの鮮やかな「江戸一新」具合がなかなかにフィクションめいた史実で、実に面白かった。こーゆーのを学校でちゃんと教えて欲しかったぞ。そもそも松平信綱とか知らなかったし。習ったか? いや習ってなくない? 習ってたらごめん。

一般社団法人 江戸町人文化芸術研究所

こちらは一般社団法人「江戸町人文化芸術研究所」の公式WEBサイト「エドラボ」です。江戸時代に花開いた町人文化と芸術について学び、研究し、保存と承継をミッションに活動しています。