さて、シャレにならない生麦事件のその後であります。できればズルズル引き伸ばして、まだ書きたくなかったのですが、イギリス公使のニールさんがそうは許してくれませんで。嫌々ながら筆を執りますけれど、この頃の幕府と同じく、かなりのダルさであります。
だいたいね、こんなこじれにこじれた案件を簡潔にまとめること自体がね、そもそも難しい話なんですっての。だしね、キッチリは無理なんでザックリで書きますよ。でないとワケ分かんなくなるんだから。それはもう仕方ないでしょ。いや別にあたしゃね、自分が楽したいから言ってるんじゃないんですぜ。これを読み直す未来のあたしのために、そうするんでさぁ。
江戸の幕臣たち
やばい。。ニールが生麦の件で、とんでもなく高い賠償金と、犯人の命を差し出さないと武力行使すっぞ、て言い出した。ウチらがさんざんっぱら回答を引き伸ばしまくってたら、とうとう我慢の限界が来たみたい。マジで横浜湾に軍艦並べ始めやがった。脅さないでくださいよ〜ってフレンドリーに肩叩いたのに、ニール笑ってなかった。なんか本気くさい。。
あわててアメリカに仲裁を頼んだけど、ニールにあっさり拒否された。次にフランスに泣きついたら「フランスはイギリスの味方するよーん」って返答で絶望。おかげで横浜はもちろん、江戸まで大パニック。戦ったら負けるのは明白だから、村人それを察して逃げる逃げる。女子供は避難しても良いけど男は逃げちゃダメ!ってお触れ出さなきゃいけないレベル。
これは一大事じゃ一大事じゃ! ウチら幕臣はもう無能しか残ってないし自分じゃ何も判断できませぬ〜! 家茂さま〜慶喜さま〜! って、え? いない? あそーか、いま上洛中なんだっけ。どどどどーすんのよー!泣。とりあえず「将軍も上司(慶喜)も京都出張中なんで返事できないもんはできないッス!」と逆ギレして時間を稼ぐしかねぇ!
孝明天皇
薩摩の久光っちゃんが勅使を引き連れ江戸に向かったことで、国政の主導権を薩摩に奪われると長州藩がなんや焦りだしてのぅ。いてもたってもおられず長州藩主が自ら入京して来よる。それに続いて、土佐藩主も大勢の尊攘派の藩士を従えて来よった。ともかく薩摩に負けじと、京の公卿たちに攘夷論を吹き込んでは(てゆーか脅迫しては)内部工作を仕掛けてきよるから、はなはだいい迷惑じゃて。
おかげで朝廷内では、長州藩の急進尊攘派の感化を受けて「外国の勢力を駆逐せよ」という声が支配的になり、その実行を幕府にせまる空気が高まりまくり。この圧のせいで、マロ(自分)としても「なんや本気で攘夷を幕府に迫らないといけない雰囲気じゃのコレ」になってきた。マロとて、基本姿勢は攘夷じゃがの、あくまで「幕府とのイニシアチブ争奪戦にそれを利用してた」くらいの感覚だったのに。。
まぁ確かに、妹の和宮ちゃんを嫁にやった条件として「早めに攘夷決行すること!」て、要求しちゃったワケだし、ここはその路線で幕府に強めに当たらにゃならぬか。。てことで14th家モッチーに「上洛せよ!」とか言ってみる。したらホントに来よった。幕府も相当弱っとるようじゃな。来ちゃったからにはマロとしても「で、攘夷はいつ決行すんじゃコラ」と言わざるを得ないやないの。。
将軍 家モッチー
あー帰りたい。なんか江戸がイギリスと緊迫状態だって知らせ来たから早く帰らなきゃなのに朝廷が帰らせてくれない。。ボクに攘夷決行日を明言させるまで引き留める作戦らしい。とりあえず老中格の「小笠原長行」にイギリス対応の全権を与えて、大急ぎで江戸に帰らせたけど、大丈夫かな。
孝明天皇が思ってたより良い人だったのは良かったけど、やっぱ攘夷決行日を言わないと彼も困るみたいね。早く帰りたいし、慶喜と相談して「じゃ5/10で」と答えてみた。ら、えらく喜んでた。別に日程を決めたところで「何をもって攘夷となすか」は曖昧な話だし、ま特に問題ないでしょ。
ともかく日程を引き出せたってことで孝明天皇も面子を保てたようで、良かった良かった。なんせ義理の兄だからね、顔立ててあげないとね。なのに、まだ帰らせてもらえないのはなんで? 早く帰って和宮ちゃんに会いたいのにな。。
任された小笠原長行
なんだこれは。。京から江戸に慌てて帰ってきたら開戦前夜みたくなっちょる。こんなんもう賠償金払って戦争回避するしかないだろ! 急いで明日11万ポンド払うってニールに伝えとけ! 将軍の許可? んなもん間に合わん! あいつは京でいまや朝廷の人質みたいなもんだし、あの空気の中で天皇がそんな許可を出すわけもないし、いいからニールに賠償金払いますって約書渡してなだめとけ!
後で重大な責任問題になる? そりゃなるだろな。だからよ、約束しときながらもまだ払わなきゃいい。あと数日もすれば慶喜は帰ってくるから、それまで俺は仮病で寝る! 慶喜が帰ってきてから判断させる! どうせ払うしか道はないんだからよ。実際に払う指示は慶喜に出してもらおう。そしたら責任も慶喜になるし。ニールが怒る? そりゃ怒るだろーけど既に怒ってんだから一緒だろっ。
イギリス公使 ニール
BAKUFUマジうぜぇ。ようやく払う約束したと思ったら、期日過ぎても払って来ねぇトカ、そんなことある普通? 国と国との約束ダゾ? 国家レベルで約束しといてスグ破るとか有り得なさすぎるダロ。だいたいオレかなり日本かばって強硬派を諌めてきた立場ジャン。やっと賠償金の支払い約束を引き出して「武力を使うことなく粘り勝ちサスガ!」って褒められたのにヨ。払って来ないってどーゆーコト? ダメだもうムカつきすぎて頭痛するし、あとはクーパー準提督に任すワ。
クーパー準提督
ハーイ! 任されたクーパーデス! てことで江戸を火の海にするためイギリス艦隊で品川沖にやって来マシター。掲げてる藍色の旗は「実弾装填ズミ」の意味デース。ミナサン覚悟してクダサーイ!
仮病中の小笠原
んだよ〜! 慶喜いま川崎あたりまで帰って来てるのにイギリスもう待てないか〜。慶喜の野郎わざと時間かけて帰ってきてやがるな。あいつ偉そうなこと言うクセに責任から逃げるクセあるし、最低の上司だわ! さすがバカ斉昭の息子なだけあるわな!
だーもうしゃーねぇ! 俺の責任になっちゃうけど明日朝一番で賠償金をイギリス公使館に届けるしかねぇ! 仮病のせいで戦争突入したって責任負わされるよりは、まだマシか、クソー。
翌日(1863 文久三年 5/9)
イギリス公使館
「確かに11万ポンド入金確認しました。毎度ありがとうございマス。デハ品川沖から軍艦を引き上げさせマース。(ホントはまだ犯人の処罰の件が残ってるケドそれはまた後で追求しますんで、とりあえず今日のところは)お疲れ様デシター」
慶喜
「ただいまー、って何オメーら勝手に賠償金払ってんだよ! 今すぐ取り返して来んかい! 日本は攘夷の方針で朝廷と結論出したんだから、港も閉鎖しろ!」
幕臣ら
「は? 無理ですし。何バカ言っちゃってんすか。そもそも攘夷が無理ですし。各国と通商条約結んで開国するって約束したのに、今さらそれを反故にしたら、すべての国と全面戦争になるだけですし。お寿司」
小笠原
「このバカ上司に何言っても無駄だ、ほっとけ! それより朝廷が長州らアホ攘夷派に占領されてるのが問題なのだ! 京に幕府の大軍率いて行ってあいつら追っ払う! 毒された公卿は片っ端から排除だ! んで天皇に攘夷の勅命を撤回させたる!」
幕臣ら「さすが小笠原殿・ザ・ラストオブ有能!」
慶喜「‥‥居場所ないから西で暮らそ」
攘夷派の公卿たち
「うわー本当に小笠原が兵を率いて来よった! なんかあいつヤケ気味で怖い! 京に入れさせず帰ってもらうよう言ってたもれ!」
小笠原「誰が帰るかボケェ! 天皇に合わせんかーい!」
家モッチー
「まあまあ小笠原さん、考えていることは理解できますけど、思わぬ不利益が生じる恐れもあるので、朝廷に申し上げて呼び寄せるまで様子をみてくださいませんか」
小笠原「く、将軍にそこまで優しく言われちゃ仕方ない。帰るぞオラァ!」
家モッチー
「小笠原は帰らせましたし、ボクも江戸で後処理いろいろやらなきゃなので、もう帰らせてもらえませんかね?」
孝明天皇「そだねー。じゃまたねー」
翌日(1863 文久三年 5/10)
幕府のみんな
「いや〜今回の一悶着はさすがにヤバかったけど、なんとか戦争回避できて良かった良かった。殺人犯の差し出しの件は薩摩と直接やりとりするみたいだし、これでとりあえずは一息つけますな」
お知らせの人
「たたた大変です! ちょ長州が『この頃がいいねと君が言ったから5月10日は攘夷記念日』とか言いながら、馬関(ばかん)海峡にてアメリカ船を砲撃したとのこと!」
幕府のみんな
「長州のばかーーん!!泣」
おおよそ流れとしてはこんな感じであろうか。細かく書くのはダル過ぎたので台詞形式でまとめたが、それぞれの抱える譲れない部分がぶつかり合ってる雰囲気は出せたかなと。それにしても、間一髪でしたな〜。もし、この時イギリスが江戸を攻撃してたら、我々が知っているのとまた全然違う歴史の流れになっていたわけで。下手したら各国の植民地になってたかもしれんのだし。
その意味では、幕府最後の希望、小笠原長行がいてくれて何とかギリセーフだった感がすごい。西郷どんや高杉晋作らの存在感にかき消されて、知る人しか知らないキャラをまたひとり見っけましたな。ともあれ、生麦事件にまつわるイギリスの幕府への要求はこれにて終結。これより、殺人犯の処刑を巡って舞台は薩摩の方に移ります。今度は久光っちゃんがピンチになる番ですよー。
でもその前にDQN長州の「下関戦争」が先か。。
ホント何なのあいつらw
参考
https://www.amazon.co.jp/生麦事件%E3%80%88上〉-新潮文庫-吉村-昭/dp/410111742X
http://www5a.biglobe.ne.jp/~kaisunao/rekisi/edo-end06.htm
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